新着情報

犬の膿皮症

ブログ

「病態」

膿皮症は皮膚における細菌感染である。2025年にInternational Society for Companion Animal Infectious Disease(ISCAD)からガイドラインが発表されており、現時点ではこれが最も標準的な内容である。ただし、ガイドラインはその時代によって変化するものであることに留意する必要がある。膿皮症は病理組織学的な感染部位の深さによって、表面性、表在性および深在性膿皮症の3つに分類される。

原因菌として多いのは、常在菌であるStaphylococcus属の細菌である。これが感染症を引き起こす要因としては、皮膚バリアを障害する基礎疾患の影響が強く疑われる。皮膚バリアを障害する基礎疾患は、皮膚糸状菌やマラセチアなどの真菌感染、ニキビダニ症などの外部寄生虫、犬アトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー疾患、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患、皮膚リンパ腫などの皮膚腫瘍、無菌性脂肪識炎などの免疫介在性疾患と多岐にわたる。そのため、丁寧な問診および診察・検査を行い、基礎疾患を見つけることが膿皮症の改善、治癒につながる。

表面性膿皮症

表皮表面にて単一あるいは複数の種類の細菌が増殖することで発症する。表面性膿皮症には、舐めたり擦りつけたりすることで急性に発症するHot spotと呼ばれる可能性外傷性皮膚炎、皮膚と皮膚が擦れあう部位に湿疹や炎症が生じる間擦疹、非特異的病変であり細胞診にて炎症細胞をともなわない細菌増殖を認める細菌過増殖症候群が含まれる。化膿性外傷性皮膚炎は同部位に突発的な強い痒み、不快感、痛みがあるものと考えられ、浸出液でじゅくじゅくとした病変を呈する。間擦疹は短頭種などの皮膚の皺によって擦れる部位に多発する。細菌過増殖症候群は紅斑、色素沈着ならびに苔癬化を呈するが、細菌が増殖する理由はよくわかっていない。

表在性膿皮症

表在性膿皮症では表皮と毛包に細菌感染が起こる。原因菌の80%近くがStaphylococcus属細菌であるとされており、そのほかStreptococcus属、Pseudomonas属、大腸菌(Escherichia coli)などが検出される。Staphylococcus属の中では90%がS.pseudintermediusであるとされ、S.coagulansやS.aureusは少ない。表在性膿皮症は、毛包内に感染が起こる表在性細菌性毛包炎や表皮小環を形成し病変の拡大を認める剥離性表在性膿皮症、若齢犬において巨大な膿疱を形成する膿痂疹、皮膚粘膜移行部に紅斑、びらん、潰瘍、痂疲などを認める皮膚粘膜膿皮症の4つの型が含まれる。表在性細菌性毛包炎は毛包に一致した膿疱を観察することができる。剝離性表在性膿皮症はシェットランド・シープドック、オーストラリアン・シェパード・ドック、コリー種で多いとられ、大きな円形の病変を呈する。膿痂疹は毛包とは無関係で巨大な膿疱を呈し、若齢犬に多いことから栄養失調やウイルス感染との関連が疑われている。皮膚粘膜膿皮症はいまだ不明な点が多い。

深在性膿皮症

深在性膿皮症では真皮あるいは脂肪組織などの皮下組織に細菌感染が起こる。原因菌で最も多いのはStaphylococcus属細菌であるとされているが深在性膿皮症のうち6割ほどであり、残り4割の症例からはグラム陰性細菌(大腸菌やPseudomonas属細菌など)が単独あるいは複数種類で検出され、さらには嫌気性菌がまれに検出される。このように深在性膿皮症は原因菌がさまざまであることから表面性および表在性膿皮症はとは異なる検査、治療が必要となる。深在性膿皮症はしばしば痛みをともなう上、血行性に感染が広がるリスクがあるため、敗血症などに進行する恐れがある。病変部からは血様膿が漏出し、出血性痂疲が認められる。毛包炎が重度に悪化した場合に毛包が破壊され、皮下に感染が起こるとせつが生じるとされている。これがさらに悪化、進行し複数の毛包が破壊されるとせつ腫症やようとなると考えられている。せつとは感染により破壊された毛包で膿の漏出を認める直径3mm以上の赤い丘疹のことをさし、せつが多発したものをせつ腫症とよぶ。ようとは隣接する複数の毛包が感染したものをさすが、これらの用語は若干あいまいである。結節、境界不明瞭な腫れ、瘻孔、潰瘍も認められる。蜂窩織炎あるいは皮膚・軟部組織感染は、皮膚の深い部分での細菌感染をさす用語である。これらの病変は表在性細菌性毛包炎において毛包が破壊することで発症し、その後の自傷や異物(破壊された毛幹を含む)の混入が感染を悪化させると推測されている。したがって、その進行は症例の免疫機能にも依存すると考えられる。

検査・診断

身体検査の延長として、まずは皮疹をしっかり観察することが重要である。病変の発生部位、左右対称性や皮疹の種類、病変の深さまで観察することで表面性、表在性、深在性のいづれであるかを推定する。毛に覆われていて観察が困難な場合は毛刈りを実施し、病変部をしっかり観察する。また、問診では、特に転院してきた症例においては過去の治療歴を中心として、経過を詳細に聴取する。これは、過去6か月以内に抗菌薬の全身投与をうけた経歴がある場合、すでに薬剤耐性菌が選択されている可能性があることや、グルココルチコイドへの反応が診断の大きなヒントになるためである。

細胞診

病変部を確認したあとは、細胞診を必ず実施する。皮膚における細菌感染の確認は診断の上で必須であり、同時に炎症細胞の存在やその細胞の種類を同定することは診断・治療の一助となる。表在性膿皮症においては貪食された細菌と好中球が実に90%以上の症例で検出されるため、膿皮症の診断には細胞診が最も重要となる。細胞診で細菌感染が確認できなかった場合は、初期の落葉状天疱瘡や無菌性膿疱症などの免疫介在性疾患を鑑別診断に挙げる必要がある。細胞診では簡易染色法を用い、細菌や細胞の種類の判別を中心に観察する。もしブドウ球菌でない細菌を認めた場合や、複数種類の細菌の感染を疑う場合はグラム染色を実施するとおおよその菌の同定が可能となり、抗菌薬の選択に役立つことがある。細胞としては好中球やマ表面において細菌増殖が起こっていないこともあるため、膿疱を一部破壊するあるいは排膿している場合は病変部奥から膿を採取して細胞診を行う必要がある。その際は同時に細菌培養検査・薬剤感受性試験用の検体を採取する。クロファージのほか、ケラチノサイトが観察されることがある。特に細菌を貪食した好中球やマクロファージの存在は皮膚病変の原因が細菌感染であることを示唆する重要な所見である。細菌数の絶対的な定量は困難であるが、おおよその細菌の数も考慮する。膿皮症の原因菌は常在菌であることがほとんどであるため、細菌数が健康な皮膚と同程度である場合、細菌は皮膚病変と無関係である可能性がある。ただし、深在性膿皮症では皮膚

基礎疾患の探索

膿皮症の診断をつけた場合、基礎疾患についても考慮し検査を実施しておくことが望ましい。これは、膿皮症の原因となるStaphylococcus属細菌は常在菌であり、健康な犬の皮膚に存在するが、すべての犬が膿皮症になるわけではないため、膿皮症を発症した犬は何らかの基礎疾患を有している可能性が高いという考えに基づく。前述のように真菌感染症、外部寄生虫症、犬アトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー疾患、内分泌疾患、皮膚腫瘍、免疫介在性疾患が皮膚バリアの障害を起こし、膿皮症の誘因となっていることが考えられるため、問診においてはこれらの疾患に関連する事項を詳細に聴取し、疑われる疾患に応じて必要な検査を実施しなければならない。腫瘍や免疫介在性疾患を疑う場合は皮膚生検を実施する。これら基礎疾患の探索をおろそかにし、難治性あるいは再発性膿皮症に対して長期間、もしくは複雑種類の抗菌薬を使用した場合、薬剤耐性菌を選択するリスクが高まる。薬剤耐性菌は獣医療と人医療に共通した非常に重要な公衆衛生上の問題であり、前述のガイドラインにも大きな影響を与えている。獣医師としては、薬剤耐性菌を蔓延させないよう膿皮症の治療に取り組むことが重要である。

細菌培養検査・薬剤感受性試験

細菌培養検査・薬剤感受性試験は膿皮症の診断と治療方針の決定に多くの情報をもたらすため常に実施を検討するが、費用的な問題もありすべての症例で実施するのは困難と思われる。細胞診において原因菌がStaphylococcus属ではないことが疑われる場合、細菌の種類によってはStaphylococcus属細菌に効果があると考えられる消毒薬や抗菌薬が十分に効果を発揮しないこともあるため、細菌の同定は重要である。費用的な問題から細菌培養検査が困難であれば、グラム染色によるおおよその菌腫の同定が有効な場合もある。細菌培養検査・薬剤感受性試験の実施が推奨される状況としては、次のようなものが挙げられる。

・過去6か月以内に抗菌薬の全身投与を受けたことあある(膀胱炎などほかの疾患であった場合も含む)

・同居動物や飼い主が抗菌薬の投与を受けている(耐性菌を保有している他者と濃密な接触がある)

・外用療法、局所療法で治療を実施したが改善しないあるいは改善が止まってしまった

・経験的に抗菌薬を選択し処方したが改善しない、あるいは改善が止まってしまった

いずれにしても選択した治療が奏功せず、再検査時の細胞診にて細菌の減少がみとめられないようであれば細菌培養検査・薬剤感受性試験を積極的に実施する。膿皮症においてはS.pseudintermediusが最も一般的な原因であるため、選択され得る薬剤耐性菌はメチシリン耐性S.pseudintermedius(MRSP)が最も多い。MRSPは主に二次診療施設で分離される高度薬剤耐性を呈する院内感染型と、一次診療施設で分離される比較的耐性の低い市中感染型に大別される。市中感染型ではその耐性の傾向は病院でよく利用する抗菌薬の種類に依存すると考えられ、有効な抗菌薬が見つかる場合が多いため、薬剤感受性試験を積極的に実施する。

治療・予後

基本的な治療としては。膿皮症の治療を目指しつつ、耐性菌を選択しないように配慮することが現在の獣医療では求められている。そのため前述のガイドラインでは表面性および表在性膿皮症におおいて外用/局所療法を中心に治療を行うことが推奨されているが、飼い主の事情により外用療法の実施が困難な場合などは抗菌薬の全身投与を選択してもいい。この際、まずは経験的に抗菌薬を選択することが多いと考えられるが、膿皮症の誘因となっている基礎疾患を全く考慮せず抗菌薬の投与を続けること、そして治療効果がなかった場合に次々と抗菌薬の種類を変えて処方することは避けるべきである。抗菌薬の処方後2週間程度でし検査を行い、細胞診を実施する。細菌の減少が見られなければ耐性菌の可能性を考慮して薬剤感受性試験を検討し、基礎疾患を常に探し続けることを心がける。以下に表面性、表在性、深在性膿皮症に分けて治療方針を記載する。

表面性膿皮症

外用/局所療法で治療する。クロルヘキシジンなど消毒薬による消毒、洗浄を行い、病変が全身に広がる場合はシャンプーなどが有効である。例えば2~4%のクロルヘキシジンが有効とされるが、Pseudmonas属細菌や基質拡張型βラクタマーゼ産生菌では効果が低いことが予想されるため、原因と思われる菌種に留意する。被毛などにより病変が観察、認識しにくい場合は毛刈り、洗浄を実施し、飼い主が病変部にアプローチしやすくするとよい。外用抗菌薬も有効であり、局所にて高濃度に使用できるため耐性菌に対しても効果が期待できる。

表在性膿皮症

初期には表面性膿皮症と同じく外用/局所療法による治療を試みる。ただし、症例の状態や飼い主の事情によっては外用療法の実施が困難な場合もあるため、最初から抗菌薬の全身投与が選択される場合もあるだろう。外用/局所療法を実施して1~2週間で再検査を行い、改善が見られない/悪化した場合は抗菌薬の全身投与を検討する。抗菌薬の選択にあたっては細菌培養検査・薬剤感受性試験を実施することが理想であるが、難しい場合は経験的に抗菌薬を選択する。現在のところは前述のガイドラインにて推奨されている処方例にしめす抗菌薬の中から選択することが望ましいが、今後耐性菌の動向によってはこの処方例はまた変更となる可能性がある。通常3~4週間で治癒することが多いとされるが、1~2週間で再検査を行い、その際に皮疹がみられなければ抗菌薬の投与を中止する。抗菌薬の全身投与により改善が認められない、あるいはすぐに再発する場合は薬剤耐性菌や基礎疾患の関与を強く疑う。基礎疾患の種類によっては予防的な意味も含めて外用療法を長期間継続する必要がある。

深在性膿皮症

初期から抗菌薬の全身投与が必要である。Staphylococcus属菌ではなく複数種類の細菌が感染していることも多いため、細菌培養検査・薬剤感受性試験は極力実施し、抗菌薬の選択を行う。まずは3週間投与し、改善が認められるが完治していない場合はさらに2週間投与する。再検査時の細胞診にて細菌が確認されなければ投薬を中止する。もし改善しない、細菌がなくならないようであれば細菌培養検査・薬剤感受性試験を繰り返し実施する必要がある。病変部に痛みがない場合は外用/局所療法を併用する。誘因となる基礎疾患を診断し、治療することが寛解の近道となる場合が多い。基礎疾患の種類によっては予防的な外用療法の継続が必要になる。MRSが検出された場合、より積極的に外用/局所療法を実施する。全身投与する抗菌剤は必ず薬剤感受性試験を実施して選択する。2週間ごとに再検査を実施し、その都度、細菌培養検査・薬剤感受性試験を実施することが望ましい。急性発症を予防あるいは予測することは好発品種以外では困難である。再発や悪化を予防するために、状態が落ち着いた後あるいは基礎疾患の治療が順調な場合でも長期間(場合によっては生涯にわたって)予防的に外用/局所療法を継続する必要がある。

予後は、基礎疾患を見つけ、その治療も適切に行えば基本的に良い。ただし、アレルギー疾患などの完治しない基礎疾患を持つ場合は生涯にわたりその基礎疾患の治療および予防的な外用、スキンケアを継続する必要がある。また、薬剤耐性菌が検出された場合は治療が複雑化し、予後が悪くなる可能性もあるため抗菌薬は正しい根拠をもって適切に使用することを心がける。