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猫の経口糖尿病治療薬(SGLT2阻害薬センベルゴ)
SGLT2阻害薬
SGLT2は腎臓の近位尿細管に発現するたんぱく質で、尿中のグルコースを再吸収する役割を果たしている。SGLT1が近位尿細管の遠位、SGLT2が近位に分布し、グルコース再吸収に果たす役割はそれぞれ10%と90%である。正常では尿中のグルコースはほぼ100%再吸収されるため、尿糖が排泄されることはない。SGLT2阻害薬の投与によりSGLT2を阻害すると、近位尿細管からのグルコース再吸収が抑制され、それにより尿中へグルコースが排泄され、正常な動物であっても尿糖が陽性になる。糖尿病の動物ではSGLT2阻害薬によりさらに尿糖が増加し、血糖値が減少する。
膵β細胞からのインスリン分泌の減少やインスリン抵抗性は高血糖を引き起こすが、高血糖は膵β細胞を抑制してインスリン分泌を減少させる。これは糖毒性と呼ばれる。糖毒性は可逆性で、高血糖が改善すれば膵β細胞の抑制は解除されインスリンの分泌は増加する可能性がある。
【適応症例】
SGLT2阻害薬による糖尿病の治療を成功させるためには、適切な症例を選択して投与しなければ、十分な治療効果が得られないばかりか、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)などの合併所により病態を重篤化させてしまう危険性がある。
併発疾患がなく、元気でよく食べる、見た目は調子のよい糖尿病の猫がよい適応となる。
この条件に当てはまらない糖尿病の猫は従来通りのインスリン投与による治療を行うことが推奨される。特に尿ケトン体陽性、高ケトン血症の猫ではDKA発症のリスクが高いため、適応の決定においてはケトン体の評価が必須である。
(インスリン治療からの切り替え)
これまでインスリンで治療していた猫において、一般状態が良好であれば、SGLT2阻害薬(センベルゴ)に変更して治療することも可能である。
ただしインスリン治療をうけていた猫では、新規に糖尿病を発症した猫とくらべてセンベルゴによる治療の成功率がやや低いため、より慎重なモニタリングが必要である。インスリン治療がうまくいっておらず、一般状態が悪い猫でのセンベルゴへの変更は推奨しない。
【副作用】
SGLT2阻害薬の副作用として最も懸念されるのがDKAの発症である。SGLT2阻害薬を投与していても、膵β細胞のインスリン分泌能が回復しない症例ではDKAが発症してしまうと考えられる。しかしセンベルゴを投与開始してまもなくDKAを発症する症例が多いため、DKAの発症を誘導するような機序(グルカゴン分泌亢進など)が存在する可能性も考えられる。
DKAの発症は投与開始から14日以内(中央値3日)に集中しているため、この期間のモニタリングが特に重要である。センベルゴを投与している猫で発症するDKAでは、尿へのグルコース排泄によって血糖値は正常であることが特徴である。この病態は正常血糖DKA(euglycemiaDKA、eDKA)
と呼ばれている。
eDKAを早期に診断するためには血糖値は参考にならないため、ケトン体の測定が重要である。尿試験紙を用いた尿中ケトン体の測定も役に立つが、血中ケトン体(βヒドロキシ酪酸)のほうがeDKAの危険性をより鋭敏に検出できる。
ケトン体が増加してきた場合、DKAのリスクが高いため、センベルゴは中止してインスリン治療に切り替える必要がある。
・消化管への影響
センベルゴの投与の副作用として消火器徴候が頻繁にみられ、38~51%の猫において下痢、軟便、嘔吐が観察されている。この薬剤はSGLT2に特異的であるが、SGLT1への作用が全くないわけではない。よってこれらの消火器徴候は、おそらく消化管でのグルコース吸収を担うSGLT1の抑制に伴う臨床徴候であると考えられる。多くの場合は一過性であり、対症療法などによって改善するが、徴候が持続する場合には投与量を減量する。
【長期的治療作用】
SGLT2阻害薬(センベルゴ)は投与を中止すると作用が見られなくなるため、生涯にわたる投与継続が必要である可能性がある。
